洗濯機の中のよう

仕事場で、家庭で、予期せぬ「混乱」を経験することがある。

自身の苦手な「状況」の出現や、想定外の「事態」が襲いかかってきて、もがき、気分が落ち込む、そんな状態は、混乱だ。

英語の混乱を表す単語に、ターモイル (turmoil) という単語がある。混乱、騒ぎ、不安といった、周り音や、心情も含めた意味がある。

私は、混乱時には、ターモイルという単語を思い出し、洗濯機で回された感覚を思い出す。

混乱状態の理由

混乱状態の時、一番辛いのは、普段の思考法が助けにならないことだ。

その理由はいくつか考えられる。

一つは、脳はなるべく自動運転で処理をしようとするので、自動運転で処理ができないと、ストレスになる。

二つ目は、ストレスを感じていると、「身体予算」が減ってしまい、「新たな事を考える」ことへの予算が足りなくなってしまう。(身体予算とは、身体の内外のいかなる動きが消費するであろうエネルギーのこと、脳はつねに消費量を予測して管理している)

三つ目は、脳の2つのモード(「脅威モード」と「報酬モード」)のうち、「脅威モード」が発令されていると、ポジティブに、多くの選択肢から、物事を解決することが難しくなってしまう。

脅威モードとは?

なんとかして混乱状態から脱出したいと誰もが願い、さまざまな改善策を試みだろう。

メディテーション、ウォーキング、感情のラベリング、ジャーナリング、コーチング、友人との会話、上司への相談。買い物、デザート、スイミング、ドライブ。

しかし、残念ながら、「混乱状態」に効く特効薬はないだろう。

脳は、「報酬」より、「脅威」を感じやすくできている。

また、驚くべきことに、人間は、社会的脅威を、物理的脅威と同じ回路で受信するため、会社で起こる「イヤナコト」は、私達は生存に関わる脅威と認識するのである。

では、どんな事を脅威として捉えるのだろうか。

ここに一つの枠組みを紹介する。

SCARFモデル

ニューロリーダーシップ研究所のDavid Rock氏は、脳が反応するトリガー(引き金)を整理した、「SCARFモデル」(スカーフ)を2008年に発表。組織の中の人がどんな事に脅威を感じ、報いを感じるかを理解するのに用いられている。

Status (地位・ステータス):他よりも、劣っているか、優れているか

Certainty (確実性):結果を予測できるかどうか

Autonomy (自律性):自分に選択権があると感じているかどうか

Relatedness (関係性):集団に属している、集団から外れている

Fairness (公平性・フェア):フェアに取り扱ってもらっているかどうか

組織変更や、定期異動が人に不快感や保守的な姿勢をもたらすのは、「確実性」や「自律性」が損なわれた脳が感じ、「脅威モード」状態になるからだと言える。

セルフ・チェック

「混乱」時は、身体予算がひっ迫しているため、新たな活動をするのではなく、低予算でできる、今の状態を「理解する」がよいのではないだろうか。

SCARFモデルを用いて、こんなセルフ・チェックが可能になる。

  • モードチェック 「自分はまだ脅威モードか?”」→ はい
  • ドメインチェック 「何に脅威を感じているか?」 → 自律性
  • コンテンツチェック 「どんな脅威を自律性で感じているか?」 → 選択権がない
  • 重要度チェック 「選択権があるのは、どの位重要か?」→ 7/10
  • エモーチョンチェック 「どんな感情か?ラベリングすると?」→”洗濯機の脱水中”
  • 期間チェック 「どの位、洗濯機の中にいる感じがするか?」
  • ケースチェック  「どんな所には選択権があると感じているか?」

チェックしていくと、「混乱」の正体に輪郭がついていき、現状の理解が進むと考える。

サマリー

「混乱」をどのように捉えて、取り扱うかのアイディアは、次の3つである。

  1. 脳が反応して「脅威モード」の場合、普段の思考法では効果がでないことを認識する
  2. 身体予算を意識し、低予算の対処法を探す
  3. SCARFモデルを用いて、何に脅威を感じているか理解する

参考文献:『SCARF® in 2012: updating the social neuroscience of collaborating with others』(2012, Dr. David Rock and Christine Cox, Ph.D)
『情動はこうしてつくられる』(2019, リサ・フェルドマン・バレット)

Photo by Sebastian Herrmann on Unsplash