共感を求められる居心地の悪さ

リーダーに「共感する」ことが求められているのは、ここ数年だろうか。「共感しよう」と言われると、正直、居心地が悪い。

どこからともなく、同調圧力を感じる言葉ではないだろうか。

生まれ持った性質か、成長できる能力か

「共感しよう」と類似した語感を持つ言葉に「協調性」がある。

あなたは「協調性に欠ける」と、人を評することをよく日本では聞くが、これは、どちらかというと、生まれもった性質、変えられない資質のように、捉えている事が多い。

つまり、「硬直マインドセット」(能力は変えられない、生まれつき持ったもの)の視点である。

「成長マインドセット」(能力は伸ばせる、成長できる)の視点でみると、「協調性が欠ける」や「協調性がない」と言った表現にはならない。

「現時点では、協調する能力がまだ低い」となるはずである。

英語のニュアンス、日本語のニュアンス

脱線するが、英語のCollaborativeは、性格や性質を感じさせない単語である。

一方日本語の「協調」は、どちらかというと「同調」を言っているように感じる。

「協調性がない」を言い換えると、「他の人と同じ考えや同じ行動をできない」といった、同意するができない事への指摘のようでもある。

英語のCollaborativeには、同意はいらない。違う考えが前提で、どう協働するかがこの単語の中の希望なのである。

協調性とは、collaborativeの形容詞。2人以上の人が特別な目的にむかって一緒に仕事をすること。involving two or more people working together for a special purpose

Cambridge english dictionary

共感に戻すと

ニューロリーダーシップ研究所のDavid Rock氏が、Fast Companyで書いた記事で、共感の問題点を3つあげている。(抜粋&DeepL翻訳)

  1. 共感に対する理解や定義がまちまちであること。共感とは単に人の話に耳を傾けることだと考える人もいれば、個人を理解することだと考える人もいます。あるの社員調査では、共感とは公正さと透明性だと考えている人もいる。
  2. 共感に関する科学が混乱していること。科学文献によると、共感は幅広い対人認知・感情プロセスを包含し、その傘の下で異なるプロセスを表現するために使われる用語という、矛盾した表現が見られる。共感が脳内でどのように機能するかという点についても明確な整合性がないため、測定や向上が難しい。
  3. ある種の共感は疲弊し、長期にわたって維持することが困難であることが判明している。例えば、医療従事者が直面する状況。

疲弊しない共感、コンパッション

共感のなかの1種、コンパッションは、疲弊せずに、私にエネルギーや活力をくれるという。

コンパッションは、日本語では、「思いやり」である。

シンパシーも思いやりと訳す辞書もあるため、ここに出てくるコンパッションは、「効果的な思いやり」と定義したい。

効果的な思いやり、コンパッションとは

コンパッションとは、リーダーが相手の苦痛を認識し、なぜそのように感じるのかをうまく理解でき、それに対して行動を起こすこと。それが、「コンパッション」効果的な思いやりである。

理解を示しただけで、行動を伴わなければ、それは「シンパシー・理解」つまり同情である。

絵・formulate LLC.,

コンパッションは、リーダーが相手の状態を上手く理解した上で、一歩進んで、悩んでいる人にとって意味のある行動を取ることで、思いがけないプラスをもたらすこと

お互いの脳が報酬モードになる

では、どのようにコンパッションが機能するか、記事ではこのように説明している。

  • コンパッションを受け取る側と、与える側の両方の気分を良くし、脳内のやる気を促進する
  • リーダーが相手の視点で悩みを認識し、意味のある行動を取ると、互いの脳が報酬モードになる
  • この時放たれる、ドーパミンとオキシトシンは、私たちを幸せな気分にし、エネルギーを感じる
  • さらに、社会的な絆を促進する
  • これらの化学物質が出ることで、協働的、イノベーティブな勢いが生まれ、生産性と成果が向上する

最近のハバードビジネスレビューの記事

2022年1月20日のハーバードビジネスレビューの記事でも、「リーダーは「共感」ではなく「思いやり」で人を導くべきだ」と言っている。

共感が判断能力を低下させる、とその理由を述べているが、その定義の曖昧さや、なぜ「思いやり」が有用かまでは、言及していない。

モヤモヤからの脱却、客体化

リーダーは、自分以外の第三者がからむ事案では、下記の「を」を多用して考えるとより思考がクリアになる。

相手「を」思いやる

相手「を」理解する

「を」を使うことで、対象を、自分の外に置き、自分と対象にスペースを与えられる。つまり、客体化、objective(客観視)する。

絵 formulate LLC.,

逆に、

相手「に」共感する

など、「に」を使うと、自分の中に自分と相手の両方が混在するため、生産的な思考には不向きである。

コンパッションをリーダーシップに

コンパッションがなぜ機能するか、現時点のサイエンスで分かっていることを紹介した。

ぜひ、「理解」プラス「行動」で、脳が気分よく仕事ができるよう実践してみていただきたい。

参考文献

Stop telling managers to be empathetic. Try this instead
リーダーは「共感」ではなく「思いやり」で人を導くべきだ

Photo by Mylon Ollila on Unsplash